「新年おめでとう」
お師匠さん(水野梅秀)の奥さんは1998年8月17日にお亡くなりになられました。「妻が亡くなってね・・・」という連絡があったことで私との縁が再びつながり得度することになったので、私がこうしてお坊さんになったのは奥さんのお陰だと思っています。その年の年末年始はお寺のお手伝いをしましたが、翌年の元旦、例年通り朝から檀家さんや地域の方々が初詣にお見えになりました。一般的には身内が亡くなった時には年賀状も出さず、新年にも「おめでとうございます」と挨拶しないと思っていました。
お師匠さんは一人ひとり丁寧に出迎え、「お年玉」と書かれた線香箱を渡し、お屠蘇やお節料理を振る舞います。その時に「新年おめでとう」と挨拶されていたのです。僧侶という立場であっても、奥さんが亡くなられたわけで、得度したばかりの私はお寺の常識なんてほとんど知らない状況でしたが、自分の立場を優先せずに、住職としての役割を全うする姿を目の当たりにしたわけです。
お坊さんやお医者さんなどの仕事に就いている人は「親の死に目にも会えない」とよく言われますが、お坊さんというのは常識も知っていなければいけないし、知った上で常識を破って社会の中での役割を果たさなければならないわけです。まさに諸行無常の生き方です。当時はここまで考え至らなかったですが。
お正月には、このようなことを毎年思い出しています。今年もよろしくお願いいたします。